有限会社菊水堂 代表取締役 岩井菊之(きくじ)さんを取材

2社で90%の寡占マーケットの中での3社目の生き残り戦略

菊水堂はポテトチップの製造卸販売の会社である。
この業界は、ガリバーのカルビーと湖池屋の2社だけで約90%のシェアを占めている。残りの10%の中で、菊水堂は独自の巧みな商品戦略とマーケティング戦略で根強いファンをつかみ、決して大手では真似することができない事業を展開している。
その考え方2代目となる岩井菊之さんの大胆な独自性確立戦略論をご紹介する。
ものづくり補助金で水分油分計やろ過機などを導入するなど、様々な「できることを組み合わせて」菊水堂独自のポジションを確立している。

会社概要

菊水堂ホームページ

会社名:有限会社 菊水堂

代表取締役:岩井菊之

設立:1957年

所在地:埼玉県八潮市大字垳(ガケ)58番地

ウェブサイト:https://kikusui-do.jp/

岩井菊之社長の想い

岩井菊之社長

1.常に「できたて」を届けたい

2.素材の味をシンプルかつストレートに伝える

3.30名規模の菊水堂だからこそできることをする

4.独自性の追求とお客様へ安心な商品をお届けする

岩井社長の生い立ち

岩井菊之は1957年1月に生まれた。大学は東京薬科大学を、そしてダブルスクールとして東京製菓学校洋菓子科を卒業した。卒業後は製薬メーカーのMRとして、またその後調剤薬局で薬剤師としても仕事をした。その薬学に対する知識が、なんと最近以前にも増して重要となった食品の安全性の追求と、品質管理の徹底に役立つことになったのである。

1億円の負債を引き継ぐ決心

1984年、27歳のときに父親が創立した菊水堂に入社。しかし当時は1億円の負債があった。1998年ABC分析を行ったところ、当時の商品構成の3割で会社は運営できるので他はやめた方がいいとのことであった。

一極集中で生き残る

そして2000年、43歳のときに代表取締役に就任。それまで菊水堂は、芋せんべいやポップコーンなどのスナック菓子も製造販売していたが2001年に「一極集中こそが生き残るカギ」であると、ポテトチップ専業メーカーになることを決意した。実に当時の40%を売り上げる商品群を捨てたのである。その後不運にもジャガイモが不作となり、原料が高騰することがあった。そのため低価格志向の大手量販店のPBから撤退することにしたのである。だが、そこから生まれたのが「ご当地ポテト」という新ジャンルのポテトチップであった。宇都宮餃子味や長野の野沢菜わさび味などの「ご当地ポテト」を製造販売した。

会社の見える化で従業員1人の負荷度合いが分かるようにする

その後、中小企業診断士の協力のもとSWOT分析をし、自らの強みと弱みを明らかにした。その解決策として出した方針が、会社の「見える化」である。たとえば工場内のラインをカメラでモニタリングすることにより、それまで商品事故が発生しても分からなかった原因が見えるようになり、商品の安全性確保が高まることになったのである。またそれまで分からなかった従業員1人の負荷度合いが見え、また従業員の得意不得意も見えるようになり、生産性の向上にも繋がった。さらに5Sと組み合わせることによって、みんなの意識の変化が生まれ、どうすれば商品がより良くなるのかを全員で考え、共有できるようになった。

小口注文をインターネットで販売

2012年、現在の事業を支える「できたてポテトチップ」のネット販売を開始することになった。大手では決してできない小口注文の「できたて」を、インターネットでお客さまに直接販売するようにしたのである。更に最新機械での製造販売ではなく、「古い機械」でおいしいポテトチップを作る。フライ油の中を炎が通り抜けていく直火炊き連続チップフライヤーで、おいしいポテトチップが出来上がる。まさに芋の香りがするポテトチップの「できたて」をネット販売で届けるようにしたのである。このように「できることを組み合わせる」ことで、大手にはできない独自の戦略が可能となったのである。これが話題になり、コンビニからうちで販売したいとの依頼が来た。しかし以前の低価格競争に巻き込まれた苦い経験からお断りをした。しかし先方より何とか販売できないかと懇願され、月に1・2回の数量限定で販売することになった。1日の生産量が限定されているため、それを逆手に取って商品価値をより高めていったのである。

全国を歩いて素材探し

「菓子のおいしさは素材で決まる」というのが、創業者である父の岩井清吉の信念であった。菊之は小学生の頃、父とポテトチップ向きの芋を北海道から九州まで探し歩いた。親子2代にわたり「本物のおいしさ」を求め続けた。徹底した大手企業との差別化が、いつしか菊水堂ならではの独自性を生んだ。そしてその独自性とネット販売という時代性が重なり、「できたてポテトチップ」という商品を生んだのである。化学調味料の不使用、季節に応じて日本各地のじゃがいもを厳選、そして沖縄産の食塩と植物油からのみできる「できたてポテトチップ」。賞味期限は2週間だが、1週間以内がおすすめである。

三代目誕生

そしてインタビューの最後に、息子が3代目として事業承継することになったと伺ったので、その息子に期待することを聞いた。だがそれは菊之が考えることではなく、3代目が自ら「ゼロにする」ことから考えてほしいとのこと。ゼロから開始する権利を3代目に与えたとのことである。菊之自身が社長を引き継ぐときに「私が会社をたたむ覚悟である」と宣言して、継いだためであると。事業承継も菊水堂らしい独自の方針である。とはいいながらも、今後厳しい時代も来るかもしれない。だがおそらく先代より受け継がれてきたDNAで、3代目も菊水堂らしく乗り越えることであろう。

 

2022年10月
インタビュアー:経営創研株式会社 堀部伸二