株式会社ハイブリッドラボ 取締役社長 石橋剛さんを取材して

ホタテAIセレクタの導入により30%生産性アップと同時に鮮度アップを実現 

AIセレクタ今回取材した(株)ハイブリッドラボは、水産加工業界のベンチャー企業であると言っても過言ではない。株式会社ラックランドが2022年2月発表した水産加工業DXソリューション「AIセレクタ」を導入したことにより、ホタテ貝柱パッキング作業の生産性が30%もアップしたのである。高校生のアルバイトでもベテランと変わらないほど作業効率が高まったのである。だがその導入は、それ以上の効果をもたらした。パッキング時においてホタテに触る回数が激減したため、鮮度が落ちなくなったのである。
DX効果として、高品質、高付加価値の商品化にも繋がり、プロをうならせる最高のホタテブランド“最鮮ホタテ”が誕生したのである。

会社概要

株式会社ハイブリッドラボ会社名:株式会社ハイブリッドラボ

設立年月日:2020年3月10日

本社:〒986-2115 宮城県石巻市万石町8番2号

株式会社ラックランド (東証プライム上場) 100%出資

代表取締役会長:望月圭一郎 ※株式会社ラックランド代表取締役社長

取締役社長:石橋 剛

事業内容:

◎水産加工事業
◎水産加工業DXソリューションの研究・開発
◎EC・小売事業

https://www.hybridlab.co.jp/

ラボという命名で石巻から社会貢献を目指す

(株)ハイブリッドラボ(以下、ハイブリッドラボ)の親会社である(株)ラックランド(以下、ラックランド)は、「日本の食文化の向上に貢献すること」を目的に1970年スタートした。そして水産加工業の未来工場を作り上げるために、ハイブリッドラボを立ち上げたのである。社名に「ラボ」とあるのは、水産加工業において、また将来的には農業など他の労働集約型業界においても、「ラボ」=「研究所」として社会に貢献したいとの強い想いを持って名付けたとのこと。その石巻市ハイブリッドラボの責任者が取締役社長の石橋剛さんである。

石橋さんは東京理科大卒である。言うまでもなく理科大卒の人はエンジニアが多い。しかし石橋さんは28歳で築地市場の大卸「丸千千代田水産」で仕事をすることになった。大卸とは、生鮮食料品等を「せり売」で仲卸業者に卸売市場内で販売できる人、法人のことである。その大卸で約20年間、それも経営者として実績を積んだ。しかしその後退社。本人曰く、しばらくの間、時間をもてあましていた。そんな時に、旧知のラックランド望月社長から誘われ2019年から顧問となり、2020年ハイブリッドラボ設立と同時に責任者となったのである。石橋さんの築地で培った水産加工の知識やネットワークと、理系の基礎知識がまさに活かされることになるのである。

HACCPハード事業補助金活用でAIセレクタ導入

2022年にHACCPハード事業補助金を活用し、「水産加工業のDX」ともいえる施設、設備を整えた。人の判断を伴う作業効率を最大限アップさせる「AIセレクタ」を採用することで、30%もの生産性を向上させた。さらに効率アップだけでなく、高品質・高付加価値の商品化に成功したのである。獲れたてよりも新鮮でおいしいホタテ「最鮮ホタテ」の誕生である。

ホタテ品質劣化を防ぐ3技術

ホタテの品質劣化は貯蔵中の硬化が原因である。それは生体のエネルギー通貨と言われるATPの減少による。それを避けるため3つの技術を投入した。まず海の中にいるよりいい状態で新鮮さを保つ、マイクロバブルの高溶存酸素量の蓄養槽を採用した。そして②ホタテを触らない「AIセレクタ」の開発。それによりなんと14倍ものATP濃度を実現したのである。さらに③ハイブリッドアイスを用いて凍結時間を84%減少させることができた。この高濃度ATPx急速凍結により、獲れたてよりおいしい冷凍“最鮮ホタテ”が完成したのである。これらの技術を融合した施設がHACCPハード事業補助金を活用することで完成した。

https://www.hybridlab.co.jp/business/#suisan

宮城式「耳吊り養殖」で最高のホタテ養殖法

ホタテといえば北海道を思い浮かべる人も多い。実は北海道と宮城県のホタテの養殖方法が違うのである。北海道は主に泳がせて育成させる。そのため筋肉質になり歯ごたえがあるホタテとなる。それに対して宮城は「耳吊り養殖」と言われ、貝殻に穴を開け紐でつるして養殖するのである。そのため規模は小さくなるが、丁寧な養殖方法のため、生で食べるとおいしく、高級すし店等では宮城産が使われることが多い。さらに三陸の海は暖流と寒流がぶつかり合うため、非常に豊な海となっている。宮城産のプロをうならせる「最高のホタテ」を作りたい。そのような「想い」から“最鮮ホタテ”は誕生した。

倒産水産加工会社を引き継ぎ3倍の生産性を実現

ハイブリッドラボは、実は倒産したホタテ・カキの水産加工会社を引き継いだ。そのためその建物と同時に従業員も引き継いだのである。石橋社長は、赴任早々に事業計画を立てた。すると1日3トンのホタテを生産しないと採算が合わないことが判明。しかし、前水産加工会社時代は最高で1日1トンだったとのこと。3倍の量である。それを実現するのは、業務改善しかないと判断し、石橋さんと社員が一丸となり、全ての作業を洗い出した。たとえば、へらを縦に置いていたのを横にするといった些細な見直しを積み上げ、なんと1日3トンを実現したのである。そしてある日、1日9トン弱の注文が入った。絶対できるわけがないと社員全員が言った。しかし石橋社長も社員と共に懸命に働き、丸2日間48時間、ほとんど寝ないで作業をすることで、なんと達成することができたのである。その時は、みんなで泣きながら喜びを共有したとのことである。こういった体験を通して、一気に一体感が醸成されていったのである。ハイブリッドラボでは、毎日夕方1時間のミーティングをしている。その日の振り返りや翌日のスケジュールの共有、そして正社員、パート従業員の意思疎通を図っている。今では残業含め自分たちでシフト表を作成するようになった。倒産を経験したことがある社員だからこそ、より主体性や自ら考える力を持ってほしいと石橋さんは考えている。

石橋社長の3つの夢

インタビューの最後に石橋さんに今後の夢、構想を聞いた。3つあるとのことである。
1つ目は、冷凍“最鮮ホタテ”で海外に打って出ることである。世界最高の品質、味であるとの自負がある。このおいしいホタテを輸出し、世界中の人に味わってほしい。今後は、アジア、欧米を問わず、日本の美味しい食材はますます強く求められるはずだ。
2つ目は、「ラボ」機能の強化である。水産加工業、とくに2011年の東日本大震災からまだ完全に立ち直れていない三陸の水産加工の世界に、新しい知見やテクノロジーを提供することで貢献したい。
そして3つ目は、社員に幸せになってほしい。社員には1000万円を稼ぐためには、どうすればいいか考えてほしいと話している。そして失敗はおおいに結構。そこから成長する。石橋さんは、社員に課題を与え、それを勉強するようにと常々指導している。

水産加工会社のベンチャー企業とは

ハイブリッドラボ石橋社長この記事の最初に、水産加工のベンチャー企業のようだと書いたが、数年後は大きく成長しているのではないだろうか。水産加工業の会社数はこの30年で半減しているし、労働人口も3割減となっている。しかしながら輸出は堅調である。今後はより伸びるに違いない。そんな時代にハイブリッドラボの冷凍“最鮮ホタテ”は最強ブランドに成長し、まさに世界に向かって羽ばたくハイブリッドラボになっていることだろう。さらにSDGs目標の「14. 海の豊かさを守ろう」だけでなく、「8. 働きがいも、経済成長も」達成するSDGsカンパニーになるのではないか。 築地での長年の経験と、理系知識を併せ持つ石橋さんだからこそ、きっと実現することであろう。

 

インタビュアー:経営創研株式会社 堀部伸二