書籍「食品工場は宝の山」の著者による概要紹介

第1回 「食品工場は宝の山」を書くにあたって食品工場は宝の山

皆さんは、以下のような3つのケースを耳にしたことはありませんか?私は食品製造業の診断やコンサルタントをするにつれ、このようなケースや情報ばかりを耳に目にしてきました。

ケース1:私が最初に携わった食品製造業は、大手食品メーカーの下請け企業でした。この企業の財務諸表を見ると売り上げは変動費分しか出ておらず、設備更新の為の内部留保は全くない状態でした。なぜ、こんな事になったのかと尋ねると、「当社の商品は定番商品で、10年ほど前まではもっと高い取引価格で販売でき、出荷数も今の倍はあった。10年間で少しずつ価格を下げられ、今の状態になった。」との事でした。

ケース2:別のケースでは最初は自社ルートで販売をしていた商品が口コミでどんどん販売数が増えた結果、大手スーパーが聞きつけ、大手スーパーと取引をすることになりました。大手スーパーからのオファーで社長は大喜びです。大手スーパーは予想通り、量を背景にギリギリの厳しい取引条件(取引価格と生産量)を提示してきました。そこで、社長は別の小口取引先との取引を断って、大手スーパーへの対応を強化しました。この会社は4年後には経営が傾き再生案件となりました。

ケース3:長年営んできた事業において、近年の温暖化や経済・政治的な理由で原材料が高騰してきました。ところが、リーマンショックや3.11後の消費の減退などの影響で業界の取引環境はますます厳しくなり、度重なる取引先からの値引き要求に応えました。取引数を増やすため、顧客の在庫を受け入れることもしました。そのため、外部の冷凍倉庫を借りることにもなりました。それでも売上規模は年々縮小していきました。気付くといつの間にか、毎年多額の赤字が生まれるようになっています。

ケース1からケース3には、どれも共通の原因があります。
一つは、景気や売上の良い時期に、経費を過去から未来に渡って“見える化”し削減してこなかったことです。
もう一つは、生産性を見える化し、意識し、改善する仕組みを社内に作り上げていなかったことです。
ケース1と3にも、共通の原因があります。商品にはライフサイクルがある事を意識し、良い時期に内部留保をためて設備投資や新商品開発の体制などの準備を怠った事です。
そんなことを言うと、「生産性や経費の節減は今まで散々やってきてこれ以上は無理だ。」としかられます。でも本当にそうですか? 図 1をみると、食品加工は米国の食品加工業に比べて圧倒的に労働生産性が低いのが判ります。ですからまだ改善余地が十二分にあるのです。
今のままの生産性なら、きっと、10年後には、内部留保がなく今ギリギリ利益が出ているか赤字の食品製造業は、存在できなくなる可能性が高くなります。
なぜって?人口が1,000万人減り、65歳以上人口率(高齢化率)は3%程増加するため、食品市場規模が著しく縮小するからです。

経営創研第1回FOOMA_BLOG資料1
(図 1 各産業の労働生産性)

経営創研第1回FOOMA_BLOG資料2

(図 2 食品製造業と他の製造業の一人当たり労働生産性比較) 

図 2を見ると、非常に高い労働生産性の食品製造業もあります。これらの業種を見ると、どちらかというと資本集約型=設備投資を行っていけば生産性が向上する産業が多いようです。真ん中の縦の線から右は生産性の低い産業ですが、そのすべて食品製造業である事が判ります。右半分の企業の一人当たり労働生産性が、1千万円以下であり其の40%程が500万円以下です。
このような企業がこれからの激動の中で生き残れるでしょうか?よく見てください殆どがスーパーにおいてあるものです。これらの産業は労働集約的な産業な上に多品種少量な産業が多いことが図からは読み取れます。
これらの産業がなくなれば、スーパーも調達ができなくなり日本の食糧供給の仕組みに壊滅的な影響が起こりそうです。
少子高齢化で人口減少が止まらないことも脅威ですが、温暖化の影響を忘れてはなりません。農業に目を向けると、ゲリラ豪雨、集中豪雨、巨大台風、冷夏、竜巻、平均気温上昇、など様々な形で農産物の収穫量に悪影響を与える気候が増えています。この傾向は今後激しくなるだけでもとに戻る事はありません。原因が温暖化にあるからです。
食品工場は宝の山一方、日本人に大切な漁業に目を向けると、空気中のCO2濃度が高く、海がそれを吸収し酸性化するためプランクトンが減少するため、食物連鎖の上位にある魚の生息数は減っていくと言われています。加えて、温暖化による海流の変化により取れなくなったり絶滅する魚類も出てきます。
農作物は、気候変動の影響を受けない農作物工場、漁業は環境コントロール型の養殖で、何とかなるかもしれませんが、これらの投資は莫大なものになるでしょう。
どうするのですか?今のままの、“ぎりぎりだけど何とかやっていく!”でよいのですか?スーパーの経営者は将来の事も考えず、“とにかく安く”でよいのですか?
私たち、他の業界で育ったものから見ると、このままでは日本の食糧供給産業の近い将来に大きな危機感を感じるのです。
そんな危機感のもと、他の業界で育った私たちが集まって、「食品工場は宝の山」を書きました。
他の業界の視点を持つ我々が今の低生産性の食品製造業を変えたいという願いを持って。

西 真一